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2006年7月

2006年7月13日 (木)

「民主主義は機能しているか」  &d

福岡で3年に1度の世界政治学会が開かれているらしい。
(報道記事/東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2006070901002742.html


その大会テーマが「民主主義は機能しているか」。
         Is Democracy Working?

(福岡大会のテーマについてのページ)http://wwwsoc.nii.ac.jp/jpsa2/ipsa/theme.htm


とてもよいテーマだとは思うが、プログラム委員長のメッセージを読んだかぎりでは、現代先進国が向き合うべきデモクラシー(民主主義)の新たな課題に焦点が当たっていない。

(20世紀までのデモクラシー)
デモクラシーの本質的なテーマは、社会の中で権力を持つ存在を、いかに社会の広範な人々によって支配統制するか、ということだ。20世紀末までに発達してきた「民主主義制度」は、政府権力について、ある程度このテーマを達成した。

(21世紀のデモクラシー)
ところが、20世紀末以降の先進民主主義諸国においては、大企業こそ、いまだ人々による支配統制を受けていない最大の権力なのだ。したがって、この分野の「民主主義制度」の構築こそ、21世紀に生きる私たちの世代にとってのデモクラシーの最大の課題なのだ。

(ギャップ)
思うに政治学などの研究者・専門家は、従来の政府に対するデモクラシーに接近しすぎている。そのため、既存の「民主主義制度」はそこそこ機能しているはずなのに、人々にはデモクラシーの実感がない、というズレが生じる。

デモクラシーの努力は、その時代・社会の権力に向けられなくてはならない、という単純な原則に、研究者・専門家は早く気づくべきだ。


"&d"="and democracy": デモクラシーを切り口に様々なトピックを捉えるシリーズ。

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2006年7月 4日 (火)

企業のガバナンス &d その2 企業支配権の売買

2006年6月20日付の日経新聞で、伊丹敬之・一橋大学教授は「問い直される『企業支配』」と題して、会社法と株式市場が持つ本質的な問題を指摘している。

私は、その問題は、企業組織が「デモクラシー(民主制)の忘れられた空間」になってきたために生じたと考える。

伊丹教授の主張を要約すると次のようになる。

会社法は株主に企業支配権を与えており、株主にしか与えていない。市場には「資本を投下して果実が生まれるのを期待する」《投資家》もいれば、「短期的な価格変動のもくろみから、利ざやを得ようとする」《投機家》もいる。どちらも株主になれる。

したがって、《投機家》が利ざや稼ぎを目的に企業支配権をちらつかせて企業(の経営陣)に圧力をかけても、《投資家》が経営改革を求めるのと「外形的には区別できない」。つまり法的に《投機家》の圧力だけを排除することはできない。

ところが、企業は単に財産の集合体であるだけではなく、「そこで働く人々の人間集団」でもある。

つまり会社法のもとでは、「ヒトの運命を支配する権力」を株式市場で自由に売買することが認められていることになり、そこに本質的な問題がある。

(以上、「」内は原文より、要約は当ブログ筆者)

考えてみれば当たり前のように違和感を覚える問題である。なぜこれまで気づかなかったのか?

企業組織は「そこで働く人々の人間集団」からなる一つの社会である。ところが、私たちは「政治分野(国や地方の政府)」のデモクラシー(民主制)には関心を払ってきたが、「市場・経済分野(企業組織)」のデモクラシーのことはすっかり忘れていた。社会は「国」や「自治体」や「地域」だけでなく、「会社」や「職場」や「家庭」も社会なのに、である。

企業のガバナンス(統治)の領域、中でも株式市場との関係は、デモクラシーが忘れられ未発達・未成熟な空間なのである(*2)。伊丹教授が指摘する問題は、そこから生じていると解釈すべきであろう。

*1: 「経済教室」欄、「資本市場と企業統治」シリーズ最終回にあたる。

*2: これまでの企業統治がまったく非民主的であったと主張するつもりはない。政治分野のデモクラシーと同じような関心を持って、法整備を含めた制度構築をしてこなかったというだけである。

"&d"="and democracy": デモクラシーを切り口に様々なトピックを捉えるシリーズ。

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企業のガバナンス &d

◆企業の民主的なガバナンスのあり方
今週の日経ビジネス(2006年7月3日号)の特集は
「日本電産、花王、HOYA 正しい社長の叱り方 米国も超える強い取締役会」
というタイトル。ベストボード(取締役会)ランキングの上位企業を中心に、8社の事例を紹介しているものだが、「企業の民主的なガバナンスのあり方」という観点で読むと非常に興味深い。

◆王様と議会のデモクラシー
「民主的なガバナンス」と言っても、現代の「普通選挙」のレベルまで発達している国家や自治体のデモクラシーとは異なる。たとえが悪いかもしれないが、独裁的な王様を議会が統制するころのデモクラシーのイメージだ。

◆お目付け役と現場の声
記事に取り上げられた強い取締役会のパターンは、2つに大別できる。
1)強力なお目付け役がいる(日本電産、HOYA、パーク24)
2)現場の声を取り入れる(サンドラッグ、ブックオフコーポレーション)
※花王は両者のミックス
いわゆる政治分野(国家、自治体)のデモクラシーから類推すると、これは両方必要だろう。権力を牽制するしくみと、世論を反映するしくみ。

◆取締役会と現場の乖離
うまくいかなかった事例として、出井CEO時代のソニーが取り上げられている。「ベスト&ブライテスト」な社外取締役をそろえたにも関わらず、うまくいかなかった点を、記事は「取締役会と現場の乖離だったのではないか。」とまとめている。
思わずあのセリフを思い出す。
「事件は会議室で起こっているんじゃない!」

◆「凡庸の団結」
“後藤はカリスマ社長が長期政権を担う花王の経営スタイルを「凡庸の団結」に変えた。”
これは花王についての記事で、後藤会長の取締役会変革について書かれたものだ。「凡庸の団結」とは、本人の言葉か記者の言葉かわからないが、すばらしい。

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