繰延税金資産(1)
最近、新聞紙上等で目にする「繰延税金資産」。「黒字化が遅れそうなので取り崩す」といった文脈で使われます(※1)が、正直言ってわかりにくい。
財務諸表の初心者のために簡単に解説を試みます。
繰延税金資産とは、簡単に言うと「前払いした税金」のことです。(※2)
気になるのは、
1)なぜそれが資産なのか?
2)なぜ税金を前払いするのか?
3)なぜ取り崩す必要があるのか?
という点です。それぞれ見ていきましょう。
1)なぜ「資産」なのか?
一般に「前払い」は、費用などが本来かかる(発生する)時期に先立ってお金(キャッシュ)が出ていくことを指します。これを「キャッシュは出ていったけれど、今の時点では本来会社が持っているべき金額だよね」と考えて「その金額の資産がある」ことにします。
2)なぜ税金を前払いするのか?
前提として、財務諸表は「財務会計」のルールで作成され、納税額の計算は「税務会計」のルールで行われる、という違いがあります。ちなみに税務会計では費用のことを「損金」、税引前利益のことを「課税所得」と呼びます(※3)が、以下、分かりやすくどちらも「費用」「税引前利益」と記します。
2つのルールの違いから、ある費用について「財務会計」では今年度に計上したけれど、「税務会計」では翌年度以降にしか計上できないというケースがあります。よくあるのは減価償却を早めるものです。(※4)
すると、費用が増えると、利益が減り、税金も減るので、
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
a)費用計上するタイミングのズレ
▽ (例:財務会計は今年度費用増、税務会計は翌年度以降に費用増)
▽
b)税引前利益が減るタイミングのズレ
▽ (例:財務会計は今年度利益少ない、税務会計は今年度多い)
▽
c)かかる税金が減るタイミングのズレ
(例:財務会計は今年度税金少ない、税務会計は今年度多い)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ということが起こります。(※5)
c)の例に注目してください。
今年度の税金の額は、財務会計が税務会計より少ないのです。
ところが実際の税金は「税務会計」にもとづいて納めるので、
「財務会計」の立場から「今年度に納めた税金の一部は翌年度以降の分だよね」とみなす、つまり「一部を前払いしている」と捉えるわけです。
長くなったので、続きの
3)なぜ取り崩す必要があるのか?
は次の記事にします。
※1: 繰延税金資産の取り崩しの記事
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090422/fnc0904222241016-n1.htm
※2: 後述するように、実際に前払いするわけではありません。
※3: 「費用」と「損金」、「税引前利益(税引前当期純利益)」と「課税所得」は、それぞれタイミングのズレを除いても完全に一致するわけではありません。細かい違いはほかにもあります。
※4: よくあるのは「有税償却」と言って、減価償却を税法の規定よりも早く(早い年度に)費用化する場合。
※5: 具体的な計算例のほうがわかりやすい方は、例えばこのサイトが参考になります。http://kessansyo.com/7-10.html
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