« 2009年8月 | トップページ | 2009年10月 »

2009年9月

2009年9月25日 (金)

NPVの精度はどうなのか?

投資プロジェクトの収益性を評価する指標として「NPV(正味現在価値)」などが使われます。こうした指標にもとづいて意思決定を行うわけですが、さて、どれほどの精度があるのでしょう?

NPVを求める計算式は、管理会計やファイナンスの本に載っています。実際にNPVを算出する際のポイントは、将来得られるキャッシュフローの見積りです。

キャッシュフローの見積りのためには、いくつもの仮定をおいて数値を積み上げるよりほかありません。

その結果のNPVです。どれほどの精度があるでしょうか?

◇◇◇

最大の問題は売上の予測です。

コスト改善だけの投資(ex.設備の更新)であれば問題ないでしょう。
しかし売上予測を伴う場合には、元データの精度が高くなければ、計算結果はフィクション(創り物)にしかなりません。

現実には
「黒字になるためには、これだけのシェアや販売量が必要だから」
という理由で、元データが設定されるケースもあると聞きます。
そうなると意思決定の判断指標としてのNPVの意味は、ほとんどなくなります。

決めるほうも、上がってくる資料がそうした前提で作られていることをわかっているので、割引いて受け取ります。

「定量化されたものに、解釈を加えて読む」
ということをやっているのです。これでは、定量化した効果が激減です。

だからといって、「NPVは参考程度」、ではもったいない。

むしろ、用いた元データの精度と、それがぶれた時のNPVへのインパクトを、定量的に把握しておくことが重要です。

◇◇◇

現在、開発に取り組んでいるプログラムでは、
1)プロジェクトについての戦略案を数値化(定量化)する段階と、
2)個々の数値のNPVへのインパクトを調べる(感度分析をする)段階
に分けて、この問題への対処方法を学びます。

年内にトライアルを行い、年明けにリリースする計画です。
また追ってご紹介したいと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年9月24日 (木)

「原因分析」をする手法、しない手法

アクション・ラーニング(AL)のコーチとして体験会を実施したときのこと。
セッションを終えてから、20代の男性から質問が出ました。

「ふつう、問題解決の手法では、原因を突き止めたうえで解決策を立てるという順序なのに、この方法(AL)ではなぜ原因分析のプロセスがないのか?(なぜなくてもよいのか?)」

 すごい、いい質問しますね〜。(^_^;)
ロジカルシンキングなんかが普及したおかげで、いきなりこんな鋭い質問をしてくる人がいるので、コーチも油断できません。

さて、どう答えればいいでしょうか?

私は、次のように答えました。

まず、

(1)
・「問題の再定義」で再定義された問題が、しばしば「問題の原因」になっていることがある。
・したがって、「原因分析」のプロセスはないけれど、原因を捉えていることがある。

そうでない場合でも、

(2)
・ALで取り上げる「問題」は問題を提示した人(たち)の行動によって解決しようとするものだ。
・このとき、主体的な行動を引き出すのは、その人にとっての主体的な問題の捉え方、つまり「自責」の捉え方であって、必ずしも客観的なものでなくてもよい。
・ところが「原因分析」は、本来客観的に行うものなので、気をつけていないと「他責」になりやすい。
ex.「景気が悪い」「会社のしくみが実情に合っていない」
・したがってALセッションでは、明示的な手順として「原因分析、原因追求」を行わない。
(原因について考えていないわけではない)

これで、多少は納得してもらえたようです。

では、原因を特定するタイプの問題解決手法と、ALのように原因を特定しないタイプの手法は、どう使い分ければよいのでしょう?

これについては、次のような考えをお話ししました。

・製造現場などのように物理的な面が大きい問題については、おそらく原因特定型の手法が適している。
・しかし、人間や組織・制度などの面が大きい問題については、ALのような原因を特定しない手法が適することが多い、と考えられる。
(もっともこれは、当事者自身が解決のための行動主体になることが前提。もし、外部コンサルタントが客観的な立場で解決策の立案を行うのであれば、原因特定型が求められるはず。)

私自身、明確な結論に至っているわけではありません。

皆さんのお考えはいかがでしょうか?

------------------------------
◇筆者は日本アクション・ラーニング協会の認定ALコーチですが、本記事の内容は、アクション・ラーニング協会の公式見解ではありません。

◇関連記事: http://asao.way-nifty.com/empower_yourself/2009/05/post-0f7a.html

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年3月期の決算データ

財務指標の中でも、とくに収益性の指標は景気動向などによって変動します。「どれぐらいの値が目安か?」と質問されて答えにくい理由の一つです。

最新の値はどうなっているのでしょう?

東京証券取引所(1部、2部、マザーズ)上場企業の決算データから、主要な指標をピックアップしました。

《ポイント》

1) ROEは、製造業がマイナス、非製造業が5%

製造業のROEがマイナスに転落したのが目立ちます。しかし、遡れば、製造業のROEは、2002年3月期の△0.18%を底に毎年上昇を続け、前期(2008年3月期)には、10%目前に迫っていたのです。

景気の先行きは不透明ですが、固定費の削減が進んでいるので、2010年3月期の収益性指標は、はっきりとした回復が期待できるでしょう。

2) ROAは、2−3%前後の水準に

前期は5−7%だったものが、製造業は1%台前半、非製造業でも3%台後半に低下しました。

3) 総資産回転率は、ほぼ1.0回

製造業と非製造業の差はわずかです。製造業がやや低いものの、非製造業にも設備型の産業が多いので、平均すると製造業とほとんど差がありません。

4) 自己資本比率は、約30−40%

製造業と非製造業に10%ポイント近い差(非製造業が低い)があります。いずれも、前期よりやや低下しています。

《データ抜粋》

_2009年3月期___全産業_____製造業____非製造業_
◇ROE       0.10%  △2.86%   5.05%
       前期 [9.31%] [9.63%] [8.75%]

◇ROA       2.36%   1.28%   3.72%
       前期 [6.07%] [6.85%] [5.04%]

◇売上高営業利益率  3.11%   2.07%   4.37%
       前期 [6.06%] [6.77%] [5.13%]

◇総資産回転率    0.97回   0.95回   1.00回

◇自己資本比率   34.54%  38.52%  29.68%
       前期[36.59%][41.24%][30.51%]

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
※ROEは「自己資本当期純利益率」、ROEは「総資産経常利益率」です。
※総資産回転率は、データをもとに弊社で算出したものです。
※自己資本比率は安全性指標です。

データの詳細は、東京証券取引所のサイトをご覧ください。
◇http://www.tse.or.jp/market/data/examination/tanshin/index.html

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年9月14日 (月)

「目に見えない資本主義」

友人に進められて読みました。大当たり! 改めて感謝。

◇田坂広志 「目に見えない資本主義  貨幣を超えた新たな経済の誕生」
(文字数も少ないので、とても読みやすい。)

 

まずは本の要旨(結論)を。

これから資本主義の土台にある「経済原理」に、5つのパラダイム転換が起こる。

1.「操作主義経済」から「複雑系経済」へのパラダイム転換
2.「知識経済」から「共感経済」への〜
3.「貨幣経済」から「自発経済」への〜
4.「享受型経済」から「参加型経済」への〜
5.「無限成長経済」から「地球環境経済」への〜

そしてこれらは、

「目に見える経済」から「目に見えない経済」へのパラダイム転換、の5つの側面である。

(以上、p.25-26より、一部要約のうえ引用)

これから起こる変化は、すでに起こっているものの中に見ることができる。
ドラッカーがそんなことを言っていたように思いますが、まさにそれを、田坂氏は本書で見せてくれます。

例えば、社会における「幸福感」について、次のように述べられています。(要約)

一つの社会において、多くの人々が「幸福感」を感じるのは、決して、その社会が「理想的な社会」だからではない。社会というものは常に「問題」を抱えている。しかし、その社会が未来に向かって、「より良い社会」へと変革を遂げていくことが信じられるならば、多くの人々が「幸福感」を感じられる。

もし、アメリカ人の多くが、オバマ大統領の誕生を見て、ある種の幸福感を感じることができたとすれば、それが理由であろう。

(以上、p.126より、一部要約のうえ引用)

幸福感とオバマ大統領の話はまだ続くのですが、こんな具合に現実の動きの中に、大きな流れを読み取っていくのです。裏返せば、大きな流れの中に、現実の動きが位置づけられていく。それがとても心地よく感じられます。

これからの経営のあり方を考えるうえで、大きなヒントが得られます。ビジネスパーソン、経営者にこそお勧めします。

 

最後に、私にとって最も大きな発見だった部分をご紹介。

人間の精神における「成熟」とは、何か。

(中略)

それは、「見えないもの」が見えるようになること。

(P.99より引用)

おこがましい言い方ですが、完全に脱帽です。


※「日本でいちばん大切にしたい会社」との併読をお勧めします。
目に見えない価値を大切にする企業のことが書かれています。
同書についてのブログ記事はこちら
http://asao.way-nifty.com/empower_yourself/2009/05/post-5e24.html

| | コメント (0) | トラックバック (0)

月見うさぎ

たまには軽い話題を。

今日、ALコーチ仲間がオフィスを訪ねてくれたうえ、手土産までいただきました。
月とうさぎをかたどったクッキーです。
(ありがとうございました)

十五夜の時期ですが、今月の満月はすでに過ぎ、次は10月らしいです。

月見うさぎ

でも、よく考えたら、うさぎが月を見るのか? うさぎは月にいるんじゃなくて?
(そういう難しいことを言っちゃいけませんよね。反省。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

政権交代と国会の控室

先週の夜やや遅め。
テレビで「国会の正面側にある控室を、自民党が明け渡すのを渋っている」というニュースをやっているところに、残業帰りの妻が帰宅しました。

◇国会の控室についてのニュース記事
http://www.asahi.com/politics/update/0909/TKY200909080388.html


「なんでこんな(くだらない)ことを面白おかしくニュースにするんだろう?」と非難めいた口調でつぶやきます。
仕事で疲れていたせいで、ボヤきたくもなったのでしょう。

ちなみに、そのときは「ZERO」でしたが、直前に「ニュース23」でもほとんど同じ内容のニュースを取り上げていました。

自民党の人が立ち退きを渋る理由は、「リフォームの費用がかかる、手間もかかる」というものです。しかし、国会内の座席配置が変わることを考えれば、十分な理由とは思えません。多くの人がそう受け止めるでしょう。

それゆえ、正面の一等地側の控室を手放したくない、という未練がましさが伝わってきます。


これは「くだらない、取るに足らない」ニュースなのでしょうか?


私はそうは思いませんでした。もちろん、受け止め方の問題です。

政権交代があったということは、これから2、3年ほど(?)の間に、全国で同じような事態がいくつも起こることを意味するのです。「国会の控室」は、その序章に過ぎません。ぞっとする思いでニュースを見た人たちが、全国にいるはずです。本格的な政権交代は、良かれ悪しかれ、そういうインパクトを持つのです。

「数十年ぶり」ということは、私たちの多くが未経験です。ビジネス界への影響も、意外に大きいかもしれないと想定しておくべきでしょう。

(疲れたところに、私の受け止め方を聞かされた妻は、さぞ迷惑だったと思いますが・・・。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

仙台出張

先々週(9月初め)、年に一度の仙台への出張がありました。

年に一度と言っても、タイミングの都合で半年振り。
前回はうっすら雪が積もっていたので、まったく逆の季節です。

でも仕事の前日、仙台駅で牛タンを味わったのは前回と同じ。
違う店に入ってみたら、少し厚切りタイプで、弾力のある歯ごたえとジュージュー感を楽しめました。(ご覧になっている方、申し訳ありません。)

仙台出張

仕事先で、東京から赴任した方に伺ったところ、仙台は魚の鮮度がよくて、どこの居酒屋の刺身でもおいしいとのこと。
仙台駅構内の寿司屋もお勧めです、と。

来年度もお仕事をいただけるように努力しなくてはなりません(決して寿司目的ではありませんが・・・)。
ただし、研修の前夜はなるべく生もの(とくに貝類)を避けること、という内規を設けているので、「帰り」に立ち寄ろうと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年9月 5日 (土)

「任侠ヘルパー」

TVドラマ「任侠ヘルパー」がなかなか面白い。

草薙くん演じる暴力団の組長が、他の地区の組長たちとともに、幹部への登用をかけた「研修」を大親分から命じられる。ところが送り込まれた先は老人介護施設。そこでヘルパーとして働くのが、その「研修」。研修仲間の「女組長」を演じるのは黒木メイサ。

この「ありえない!」設定のおかげで、毎回、老人介護の現場の問題などがシリアスになりすぎずに描かれる。暴力団を美化しすぎているとの批判があるかもしれないし、老人介護の実態はこんなもんじゃないという批判もあるだろう。

しかし、面白くなければドラマは見てもらえない。そのぎりぎりの線を、巧みな設定とシナリオでよく実現していると思う。老人介護に関心がない人や世代に一定の情報を伝えることに成功している点を、高く評価したい。


黒木メイサが草薙くんに惹かれていく一方で、草薙くんは施設の運営会社の社長(夏川結衣)と、その息子を介して接近していく。ところが、社長は自ら若年性アルツハイマー型認知症を発症し、それを機に社長の座を追い落とされる――という背景のストーリーがうまく絡められている。


さて、9月に入り、いよいよ物語は佳境に入った。私の関心事は黒木メイサの恋の行方。いや、ちがった。「研修のねらい」だ。

大親分は何を学ばせたくて、若手幹部たちにヘルパーの仕事をさせているのか?

有無を言わさぬ長期間の「研修」だからから可能だとも言えるが、「何を学んで欲しいか」は事前に告げられない。自分たちで見つけるべきものなのだ。

われわれ視聴者も、研修する草薙くんたちとともに、そこから何を学ぶべきなのかを問われながら、ドラマを見ることになる。


◇フジテレビ 任侠ヘルパー 毎週木曜22時から放映。たぶんあと2回で終わる。
http://wwwz.fujitv.co.jp/ninkyo-helper/index.html

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年9月 2日 (水)

社長が退任する理由

16才の子の父親が、子供との関係を理由に単身赴任先のポストを捨てる。
しかもそのポストがグローバル企業の社長だとしたら?


そんな決断をしたのは、イギリスのピルキントン社を買収した日本板硝子の社長兼CEO、スチュアート・チェンバース氏。

買収された側のピルキントン社の社長で、1年余り前の2008年6月に買収した側の日本板硝子の社長に就任した人である。日本に単身赴任中だが、

「8月初めの休暇中に英国の家族と過ごした際、このまま日本で社長を続けると16歳の息子が見知らぬ他人になってしまう不安を感じた」

のだと言う。

さて、日本ではこうしたケースがどれぐらいあるだろうか?

ワークライフバランスが喧伝され、政治家の選挙公約にまで盛り込まれる時代。しかし、経営トップが「家庭の事情」で退任することほど、会社で働く私たちの意識を変える影響力はない。

仕事を大切にし、責任感の人一倍強いビジネスパーソンが、時と場合によっては家庭(ライフ)を優先する。それがワークライフバランスの本質だと思う。

ワークライフバランスは、働く女性だけのためのものではないし、仕事は最小限にして、家庭生活や趣味の時間を充実させたいと考える人だけのものでもない。

改めてそういうことを教えてくれるニュースだった。

◇参照記事:
2009/08/27付 日経新聞 「日本板硝子 チェンバース社長が退任」
(※退任予定は9/30付)

【補足】
「家庭の事情」という理由を真(ま)に受けるべきではない、という穿った見方もできる。しかし、公式発表の理由に選ばれたこと自体、強いメッセージを持つと言える。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年8月 | トップページ | 2009年10月 »