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2010年3月 2日 (火)

ROA の計算で分母に期首期末平均を用いるのはなぜか?

財務分析の指標の話。
ある受講者の質問をきっかけに、説明のしかたを深く考えさせられました。

以下、少し長いです。予めご了承ください。

ROA(総資産利益率)やROE(株主資本利益率)、あるいはATO(総資産回転率)などの指標を計算するとき、分母である、総資産(ROA,ATO)や株主資本(ROE)に、期首(前期末)と期末の値の平均値を用いるのはなぜか?

財務会計の研修で受けた質問です。

よく受ける質問なので、答え方は決まっています。

分子である「利益」や「売上高」は、1年間の「期間」の値なので、分母も、一時点ではなく「期間」の値にすべきなのです。そのために、期首と期末の値を平均して、期間平均値とします。

ちなみに、この手の指標は、期間に「年」を用います。預金金利は、6ヶ月定期であっても、年利で表示されますよね?

こんな具合です。

質問された方は、一応わかってくれたようですが、どうも完全には納得がいっていない様子が、表情からうかがわれました。

それが気になって、その晩、何がわからなかったのだろうと考えました。

何かをわかろうとするとき、私たちは、知っていることの類推で捉えようとします。ところが、このケースは身近に類推がきくものがありません。

【体重との比較】

例えば、体重。
60kgの人が、1年間で3kg増えたときのことを考えましょう。

3割る60で、5%増えたと言うのがふつう。
このとき、60kgと1年後の63kgの平均(期首期末平均)で割ったりしません。
最初の60kgを分母にして割り算をします。

先のような私の答えでは、体重の場合との違いがわかりません。
(ごめんなさいね。)

何が違うのでしょう?

体重の場合、同じもの(体重)について、ある時点とその1年後を比較します。
そして、「変化(増加)がどれだけか」を、最初の時点を基準にして、パーセント表示しているのです。

ATOやROAに代表される、資産回転率や資産利益率の指標は、分母にあたるもの(資産など)を使って、分子にあたるもの(売上、利益)をどれだけ生み出せたか、を捉えるものです。
体重のように、同じものの変化を捉えているのではありません。

分母である資産などは、日々増減しています。
それを用いて、日々売上や利益を得る活動をしているので、分母に期間平均を用いるのです。

もしデータがあれば、365日の残高を平均すればよいのですが、実務上は、簡便に手に入る期首期末の値だけで平均値を算出します。

【預金金利との比較】

手段と成果という関係は、むしろ預金と利息の関係に近い。
でも、預金金利の計算でも、期首期末平均なんて聞いたことがありません。近いとはいえ、やはり違うのです。

まず、単利であれば、体重と同じです。
(単利は、付いた利息を元金に加えない。)

では複利とはどこが違うのでしょうか?

(複利は、付いた利息を次の元金に加える。
例えば、10%の半年複利で100万円を1年間預けると、半年後に5万円(半分の5%)の利息が付き、1年後には、105万円の元金に5.25万円の利息が付いて110.25万円になる。)

違いは、分母と分子を別物として扱うかどうかです。

複利計算では、ある期間の元金にその期間の利息を加えたものが、次の期間の元金となる。つまり、利息の分だけ元金が増える、という関係。

他方、ROAやATOの計算では、分母と分子は独立したものとして扱われます。

例としては、ATOの方がわかりやすいでしょう。

売上高/平均総資産 で計算される総資産回転率(ATO)は、資産を用いて、どれだけの売上高を得たかを表す。
しかし、得られた売上高が、総資産に「加わる」わけではない。

売上高の大小は、総資産を増減させる要因にはなるけれど、そのまま足されるわけではない。
逆に、総資産は売上高の大小と関係なく増減することがある。

つまり、分子である売上高と分母である総資産は、別のものであるから、独立して扱うわけです。

ROAやROEのように分子が利益の指標でも、独立して扱う点は同じです。(ATOに比べると違いがわかりにくくなりますが・・・)

生み出された利益は、分母である総資産や自己資本を増加させるけれども、分母が増減するのはそれだけが要因ではない。

したがって、
ある期間に得られた利益が、期末の分母に加わっているという風には考えません。分母の増減は分子の大小と関係がない、つまり、独立している、という扱い方をします。

さて、相当長くなってしまいましたが、これで、期間平均をとる理由が納得できたでしょうか?
もう少しシンプルな説明方法ができるように、今後工夫を加えたいと思います。(何かいい知恵があれば、ご教示ください!)

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コメント

参考になりました。ありがとうございます。

投稿: 勉強中 | 2021年3月27日 (土) 16時49分

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