組織が持つ関心と責任感の狭域化メカニズム: 階層による範囲の分業と組織目標への没頭
市場メカニズムが、私的利益・幸福へのフォーカスを促し、社会全体への関心と責任感を低下させるのと同じく、組織も全体への関心と責任感を低下させる。もう一つの狭域化メカニズムである。
組織は分業による専門化で個々の業務の効率向上をもたらす。他方で、他部門や組織全体への関心や、組織の外の環境、社会への関心を低下させる。これは正確には、分業制よりも階層制の影響と考えられる。分業体制の設計や部門間の調整、外部環境への適応などの業務を管理職や経営者層に委ねるので、残りの構成員は切り分けられた部分だけを見ていればよいことになる。その意味で階層制も一種の縦の分業特化言える。これを「階層による範囲の分業」と呼んでおく。(※注)
また、勤め先の会社のことを考えれば、組織はその目的へのフォーカスと没頭を促すこともわかる。自社の商品を世の中に普及させること、お客様に喜んでもらうこと、売上や利益を上げること。何であれ、目的や目標が明確な組織であれば構成員はそこに集中する。それ自体は成果を大きくする上で有効だが、行き過ぎると社会全体の利益や幸福への関心が低下する。組織目標が私的利益の追求であればなおさらである。その結果、構成員は組織活動の環境としてしか社会を見なくなる。これを「組織目標への没頭」と呼んでおく。
以上のように組織は「階層による範囲の分業」と「組織目標への没頭」という関心と責任感の狭域化メカニズムを持つ。したがって、人の生活の中で組織での活動が占めるウェイトが大きくなればなるほど、このメカニズムの影響を大きく受けることになる。
(※注) 分業についての補足。いわゆるヨコの分業が、必ずしも関心と責任感の狭域化を促すものでなさそうなことは、市場取引や貿易における分業、専門特化を考えればわかる。何に特化すべきかを自ら見直す必要があるからだ。
★2017年5月14日: 一部の表現を修正して更新しました。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント