« 2017年7月 | トップページ | 2018年4月 »

2017年8月

2017年8月15日 (火)

恐怖をつくり出し、維持する「安全国家」

水野和夫氏の著書「閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済」(※1)によれば、「安全国家」とは「法治国家」と対比されるもので、「緊急事態のもとで、警察の取り締まりが司法権力にとって代わるように」なったものだという。

★以下は、同書 p. 85-87 の内容を引用・要約し、一部筆者の解釈を加えて再編したもの。この部分は、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの「法治国家から安全国家へ」という小論にもとづいて書かれているので「孫」解釈となる。
------------------------------
法による統治で、万人の万人に対する闘争がもらたす恐怖を終わらせるのが「法治国家」。(私たちが当たり前に思う国家像だろう。)

これに対して、国家が緊急事態や非常事態の宣言をし、それが常態化、長期化するのが「安全国家」。
「安全国家」は、恐怖から国家の本質的機能と正当性を引き出す。そこでは、恐怖をつくり出し、維持することが目的化する。

具体的には、パリの同時多発テロでフランスが発令した非常事態宣言が挙げられる。
2015年11月に発令され、2016年12月には、2017年7月までの延長が決定されている。(※2)
非常事態宣言のもとでは、警察が令状なしで家宅捜索できるほか、集会やデモを禁じることもできる。

緊急事態発令の長期化は、第二次大戦前のドイツでのヒトラーの権力掌握時にも見られる。
前政権時代から、すでに緊急事態の発令が頻繁に行われていたが、ヒトラーは首相就任後の最初の行為で緊急事態を発令し、その後解除されなかった。
------------------------------

※1: 閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済、水野和夫、201705、集英社新書、ISBN978-4-08-720883-2
※2: 2017年7月6日、フランス国民議会(下院)の議決により、非常事態宣言は11月1日までの延長が決まった。延長は6回目。これに先立って、マクロン大統領は今回の延長を最後にする方針を表明した。<https://mainichi.jp/articles/20170708/k00/00m/030/026000c>

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年7月 | トップページ | 2018年4月 »