自社株の取得
「自社株を取得する」というニュースを目にすることがよくありますが、財務会計入門レベルの一日研修では、なかなかそこまで解説する時間が取れません。でも、そんなに難しい話ではないので、理解しておくと便利です。
◆自社株取得を理解するためのポイント
1. そもそも自社株の取得とは何なのか?
2. 自社の株式は本来誰が持っているものなのか?
3. 会社が自分の会社の株式を取得するとどうなるのか?(BSにどう表れるのか?)
4. 何のために自分の会社の株式を取得するのか?
5. 参考: 自社株の「消却」とは?
1. そもそも自社株の取得とは何なのか?
発行済みの株式を、会社自身が、株式の持ち主=株主にお金を払って、買い取ることです。正式には、「自己株式」の取得といいます。
取得した株式のことを「金庫株」とも言います。英語の Treasury Share( または Treasury Stock )から来た呼び方です。
2. 自社の株式は本来誰が持っているものなのか?
会社の株は、本来、その会社以外の者が持ち主になります。その会社自身が持つものではありません。
株式を発行してキャッシュを得るのが株式会社のしくみだからです。キャッシュを払い込む側、つまり株式を持つ側が会社自身であったら、株式発行の意味がありません。そのため、2001年の商法改正以前は実質的に禁止されていました。
3. 会社が自分の会社の株式を取得するとどうなるのか?(BSにどう表れるのか?)
自己株式の取得は、株主から一定の価格で購入することになるので、会社から現金が出て行きます。つまり資産が減少します。
代わりに会社は「自己株式」を持つことになりますが、これは資産ではなく、純資産の部 の減少(マイナス)項目になります。具体的には、株主資本の内訳に「自己株式」が加わり、その金額に「△」が付きます。
4. 何のために自分の会社の株式を取得するのか?
上場企業の場合、株主への還元になるからです。
株主への還元は、普通は配当で行います。配当により、株主は現金収入を得ます。
一方、自己株式の取得の場合、現金収入を得るのは、会社に株式を購入してもらった株主だけです。残りの(大多数の)株主にはどんな「還元」があるのでしょうか?
還元は、「株価の上昇」という形で得られます。(したがって、株を売らなければ現金収入は得られません。)
株価が上がる理由は、簡単に言うと、一株当たりの利益が増えるからです。一株当たりの利益を算出するときの分母になる「発行済み株式数」は、「自己株式」を除外した数字になります。(時価総額を計算するときも、自己株式の数は含まない。)
もっとも、株価の上昇は、理論上の話であって、実際にその分だけ上昇するかどうかは別です。たまたま他の要因で下落することもありえます。
なお、会社が取得した自己株式は、増資などの代わりに活用することができます。(つまり、再度社外に売ると、株式を新たに発行したのと同じことになる。)
5. 参考: 自社株の「消却」とは?
取得した自己株式は、「発行済み株式数」に含めないので、実質的に株式としての存在意義がありません。これを本当になくしてしまうことを「消却」と言います。(減価償却の「償却」とは字が違うので注意。)
消却すると、株主資本の内訳項目から「自己株式」がなくなります。マイナスの金額がなくなる代わりに、「その他資本剰余金」(同じく株主資本の内訳項目)の金額を減らすことになっています。
以上。
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