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2010年12月21日 (火)

自社株の取得

「自社株を取得する」というニュースを目にすることがよくありますが、財務会計入門レベルの一日研修では、なかなかそこまで解説する時間が取れません。でも、そんなに難しい話ではないので、理解しておくと便利です。

◆自社株取得を理解するためのポイント

1. そもそも自社株の取得とは何なのか?

2. 自社の株式は本来誰が持っているものなのか?

3. 会社が自分の会社の株式を取得するとどうなるのか?(BSにどう表れるのか?)

4. 何のために自分の会社の株式を取得するのか?

5. 参考: 自社株の「消却」とは?

1. そもそも自社株の取得とは何なのか?

発行済みの株式を、会社自身が、株式の持ち主=株主にお金を払って、買い取ることです。正式には、「自己株式」の取得といいます。

取得した株式のことを「金庫株」とも言います。英語の Treasury Share( または Treasury Stock )から来た呼び方です。

2. 自社の株式は本来誰が持っているものなのか?

会社の株は、本来、その会社以外の者が持ち主になります。その会社自身が持つものではありません。

株式を発行してキャッシュを得るのが株式会社のしくみだからです。キャッシュを払い込む側、つまり株式を持つ側が会社自身であったら、株式発行の意味がありません。そのため、2001年の商法改正以前は実質的に禁止されていました。

3. 会社が自分の会社の株式を取得するとどうなるのか?(BSにどう表れるのか?)

自己株式の取得は、株主から一定の価格で購入することになるので、会社から現金が出て行きます。つまり資産が減少します。

代わりに会社は「自己株式」を持つことになりますが、これは資産ではなく、純資産の部 の減少(マイナス)項目になります。具体的には、株主資本の内訳に「自己株式」が加わり、その金額に「△」が付きます。

4. 何のために自分の会社の株式を取得するのか?

上場企業の場合、株主への還元になるからです。

株主への還元は、普通は配当で行います。配当により、株主は現金収入を得ます。

一方、自己株式の取得の場合、現金収入を得るのは、会社に株式を購入してもらった株主だけです。残りの(大多数の)株主にはどんな「還元」があるのでしょうか?

還元は、「株価の上昇」という形で得られます。(したがって、株を売らなければ現金収入は得られません。)

株価が上がる理由は、簡単に言うと、一株当たりの利益が増えるからです。一株当たりの利益を算出するときの分母になる「発行済み株式数」は、「自己株式」を除外した数字になります。(時価総額を計算するときも、自己株式の数は含まない。)

もっとも、株価の上昇は、理論上の話であって、実際にその分だけ上昇するかどうかは別です。たまたま他の要因で下落することもありえます。

なお、会社が取得した自己株式は、増資などの代わりに活用することができます。(つまり、再度社外に売ると、株式を新たに発行したのと同じことになる。)

5. 参考: 自社株の「消却」とは?

取得した自己株式は、「発行済み株式数」に含めないので、実質的に株式としての存在意義がありません。これを本当になくしてしまうことを「消却」と言います。(減価償却の「償却」とは字が違うので注意。)

消却すると、株主資本の内訳項目から「自己株式」がなくなります。マイナスの金額がなくなる代わりに、「その他資本剰余金」(同じく株主資本の内訳項目)の金額を減らすことになっています。

以上。

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2010年3月 9日 (火)

財務3表の1チャート化

BS,PL,CF のいわゆる財務3表を、1つのグラフチャート上に表したいと考えていました。それもできるだけカスタマイズなしで。

1チャートに表すからには、売上高や総資産に比べて、純利益やキャッシュフローの大きさが小さくなるのはしかたありません。それでも見づらくならないように、いかに情報量を絞るかがポイントです。

何より悩ましかったのはキャッシュフロー計算書。プラスになったりマイナスになったりするのを、どのように表すか。見せ方とグラフの作り方で、しばらく行き詰まっていました。それをなんとか解決したのが、下のチャートです。

題材にしたのは富士フイルムグループ。総資産を100としたボリュームで、金額は表示していません。まだ出来上がっていないので、あくまでチャートのサンプルとしてご覧ください。

◆富士フイルムホールディングスの2009年3月期 連結決算 (画像クリックで拡大)

Ffhd0903v2_2 ※当初のチャート画像に一部誤まりがあったので差し替えました。「固定資産ほか」が「流動資産」と表記されていました。お詫びして訂正いたします。<2010/03/21>

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2009年9月24日 (木)

2009年3月期の決算データ

財務指標の中でも、とくに収益性の指標は景気動向などによって変動します。「どれぐらいの値が目安か?」と質問されて答えにくい理由の一つです。

最新の値はどうなっているのでしょう?

東京証券取引所(1部、2部、マザーズ)上場企業の決算データから、主要な指標をピックアップしました。

《ポイント》

1) ROEは、製造業がマイナス、非製造業が5%

製造業のROEがマイナスに転落したのが目立ちます。しかし、遡れば、製造業のROEは、2002年3月期の△0.18%を底に毎年上昇を続け、前期(2008年3月期)には、10%目前に迫っていたのです。

景気の先行きは不透明ですが、固定費の削減が進んでいるので、2010年3月期の収益性指標は、はっきりとした回復が期待できるでしょう。

2) ROAは、2−3%前後の水準に

前期は5−7%だったものが、製造業は1%台前半、非製造業でも3%台後半に低下しました。

3) 総資産回転率は、ほぼ1.0回

製造業と非製造業の差はわずかです。製造業がやや低いものの、非製造業にも設備型の産業が多いので、平均すると製造業とほとんど差がありません。

4) 自己資本比率は、約30−40%

製造業と非製造業に10%ポイント近い差(非製造業が低い)があります。いずれも、前期よりやや低下しています。

《データ抜粋》

_2009年3月期___全産業_____製造業____非製造業_
◇ROE       0.10%  △2.86%   5.05%
       前期 [9.31%] [9.63%] [8.75%]

◇ROA       2.36%   1.28%   3.72%
       前期 [6.07%] [6.85%] [5.04%]

◇売上高営業利益率  3.11%   2.07%   4.37%
       前期 [6.06%] [6.77%] [5.13%]

◇総資産回転率    0.97回   0.95回   1.00回

◇自己資本比率   34.54%  38.52%  29.68%
       前期[36.59%][41.24%][30.51%]

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※ROEは「自己資本当期純利益率」、ROEは「総資産経常利益率」です。
※総資産回転率は、データをもとに弊社で算出したものです。
※自己資本比率は安全性指標です。

データの詳細は、東京証券取引所のサイトをご覧ください。
◇http://www.tse.or.jp/market/data/examination/tanshin/index.html

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2009年7月 3日 (金)

2008年度に破綻した企業の安全性指標

財務分析で、安全性指標と言えば、まず出てくるのが《流動比率》と《固定比率》。

《流動比率》は、短期の支払い能力を表し、100%以上必要で、200%以上が望ましいとされます。

《固定比率》は、より長期的な財務構造の安定性を表し、100%未満が望ましいとされます。

でもその基準、どれぐらい「あて」になるの? ということで、2008年度に破綻した上場企業43社について、簡単な調査・分析を行いました。

◇結論

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◇グラフの説明

棒グラフが《流動比率》で、左寄りの赤い部分が200%以上の企業。中央の濃いピンクが200%未満、100%以上で、右寄りの薄いピンクが100%未満。100%以上でも破綻しているところが多数あるので、100%以上は目印になりません。

青い折れ線は《固定比率》で、100%以下の企業は白抜きの◇で表されています。破綻企業の4割弱が100%以下の条件を満たしており、これも目印にはなりません。

ちなみに、《固定長期適合率》が100%以下、という企業は、《流動比率》が100%以上、という企業とほとんど一致しています。(計算式からも推測がつきます。) どっちにしても安全性の目印としては役立たないわけですが。

◇分析上の注意点

破綻していない企業の安全性指標と比較したわけではありません。 あくまで、「破綻前」の決算書を見て、流動比率や固定比率の基準値を手がかりにすれば、「安全でない」という予測ができたか、という視点です。

また、2008年度に破綻した企業は、不動産と建設の2業種で7割を占めています。不動産の市況が急速に悪化したことが破綻要因になっているので、2008年度のデータには、そうした特徴(偏り)があることにも注意が必要です。


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2009年6月25日 (木)

ROEを高めるには・・・

入門レベルの財務研修を実施していますが、さすがにROEまでカバーしようとすると、1日ではハードルが高くなります。

昨日も「ROEと自己資本比率の関係をもう少し詳しく」という質問(要望)を受けたので、こんなスライドを作ってみました。

これだけじゃ関係はわかっても、「なぜか?」の説明には不十分なんですけど・・・。

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2009年5月31日 (日)

上場企業の経常利益率は2.5%に(09年3月期)

日経新聞に掲載された業績数値から計算すると、2009年3月期決算の金融を除く全産業の売上高経常利益率は2.5%

2008年3月期は5.5%だったので半分以下に低下したことになる。
11月時点の見込みは4.9%だったので、その後の落ち込みが予想より大きかったことが伺われる。(※1)

業種別では、(おそらく輸出や海外需要の打撃が大きい)製造業の値が低く、非製造業が持ちこたえていることがわかる。



【2009年3月期実績】

(連結) 売上高・億円     経常損益・億円  売上高経常利益率
全産業  4,829,301  121,394  2.51%

製造業  2,881,453   35,379  1.23%
非製造業 1,947,848   86,015  4.42%


今期見込みは、製造業、非製造業とも今期に続いて減収減益の見通し。売上高経常利益率は、非製造業がわずかな改善を見込むが、製造業はわずかながらさらなる低下を見込んでいる。

【2010年3月期見込み】
(連結) 売上高・億円     経常損益・億円  売上高経常利益率
全産業  4,283,237  111,220  2.60%

製造業  2,488,189   28,681  1.15%
非製造業 1,795,048   82,538  4.60%


○出所: 日経新聞 2009/05/30付 財務面 「09年3月期 最終集計 上場企業決算 電機・自動車、総崩れ 7期ぶりに減収減益」より
 全産業には、銀行、証券、保険、その他金融を含まない。上場会社の3月本決算会社。新興市場、決算期変更会社、親会社が上場している会社を除く。連結決算を作成しない会社は単独決算を集計に加えてある。
 ただし、経常利益率は筆者が計算した。

※1: 2008年3月期決算実績と2009年3月期決算見込の値は、2008年11月時点の日経新聞の記事を引用した本ブログの過去記事を参照:
http://asao.way-nifty.com/empower_yourself/2008/12/post-6f53.html

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2009年5月19日 (火)

繰延税金資産(2)

前の記事からの続きです。

これまでに、
繰延税金資産は「前払いした税金」のことで、
1)なぜそれが資産なのか、
2)なぜ税金を前払いするのか、
を見てきました。

最後に残りの
3)なぜ取り崩す必要があるのか、
という点を見ていきましょう。

3)なぜ取り崩す必要があるのか、

2)の説明の例では、翌年度以降も税引前利益が黒字で「税金がかかる」ことを前提にしていました。
ところが、翌年度以降に税引前利益が出ず、税金がかからなければどうでしょう?

「前払いした税金」は、
「(税務会計にもとづいて)今年度納めた税金の一部を、
財務会計の立場で翌年度以降の分とみなした金額」ですから、
翌年度以降赤字になって、そもそも「翌年度以降にかかる税金」がなくなれば、価値がなくなってしまいます。

したがって、しばらく赤字が続きそうな場合には、資産としての価値を認めるわけにいかないので、資産から消します。
「取り崩す」と言いますが、元々払ってしまった税金ですから手元には何も残りません。取り崩した分だけ(税引後)当期純利益が減ります。(※6)

これで、「黒字化が遅れそうなので繰延税金資産を取り崩す」という企業の説明は、「翌年度以降の税金を前払いしたつもりでいたけれど、黒字という前提が崩れたので、その資産価値がなくなったものとします」という趣旨だとわかるでしょう。

※6: 繰延税金資産の減少に対応するのは、《法人税等調整額》の減少。《法人税等調整額》は、法人税等の控除(引き算)項目なので、結局、税引前利益の足し算項目になる。それが減ると当然、税引後の利益が減る。

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繰延税金資産(1)

最近、新聞紙上等で目にする「繰延税金資産」。「黒字化が遅れそうなので取り崩す」といった文脈で使われます(※1)が、正直言ってわかりにくい。
財務諸表の初心者のために簡単に解説を試みます。

繰延税金資産とは、簡単に言うと「前払いした税金」のことです。(※2)

気になるのは、
1)なぜそれが資産なのか?
2)なぜ税金を前払いするのか?
3)なぜ取り崩す必要があるのか?
という点です。それぞれ見ていきましょう。

1)なぜ「資産」なのか?

一般に「前払い」は、費用などが本来かかる(発生する)時期に先立ってお金(キャッシュ)が出ていくことを指します。これを「キャッシュは出ていったけれど、今の時点では本来会社が持っているべき金額だよね」と考えて「その金額の資産がある」ことにします。

2)なぜ税金を前払いするのか?

前提として、財務諸表は「財務会計」のルールで作成され、納税額の計算は「税務会計」のルールで行われる、という違いがあります。ちなみに税務会計では費用のことを「損金」、税引前利益のことを「課税所得」と呼びます(※3)が、以下、分かりやすくどちらも「費用」「税引前利益」と記します。

2つのルールの違いから、ある費用について「財務会計」では今年度に計上したけれど、「税務会計」では翌年度以降にしか計上できないというケースがあります。よくあるのは減価償却を早めるものです。(※4)

すると、費用が増えると、利益が減り、税金も減るので、
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
a)費用計上するタイミングのズレ
▽  (例:財務会計は今年度費用増、税務会計は翌年度以降に費用増)

b)税引前利益が減るタイミングのズレ
▽  (例:財務会計は今年度利益少ない、税務会計は今年度多い)

c)かかる税金が減るタイミングのズレ
   (例:財務会計は今年度税金少ない、税務会計は今年度多い)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ということが起こります。(※5)

c)の例に注目してください。
今年度の税金の額は、財務会計が税務会計より少ないのです。
ところが実際の税金は「税務会計」にもとづいて納めるので、
「財務会計」の立場から「今年度に納めた税金の一部は翌年度以降の分だよね」とみなす、つまり「一部を前払いしている」と捉えるわけです。

長くなったので、続きの
3)なぜ取り崩す必要があるのか?
は次の記事にします。

※1: 繰延税金資産の取り崩しの記事
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090422/fnc0904222241016-n1.htm

※2: 後述するように、実際に前払いするわけではありません。

※3: 「費用」と「損金」、「税引前利益(税引前当期純利益)」と「課税所得」は、それぞれタイミングのズレを除いても完全に一致するわけではありません。細かい違いはほかにもあります。

※4: よくあるのは「有税償却」と言って、減価償却を税法の規定よりも早く(早い年度に)費用化する場合。

※5: 具体的な計算例のほうがわかりやすい方は、例えばこのサイトが参考になります。http://kessansyo.com/7-10.html


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2009年4月 1日 (水)

「新社会人のためのニッポン株式会社」

4月1日。新年度を迎える会社の方も多いことでしょう。
また、今日から社会人(会社員?)という方も多いでしょう。
私は、どちらにも当てはまりませんが(笑)、気持ちを新たに仕事に取り組みたいと思います。

さて、今日から日経新聞、投資・財務欄で表題の連載記事が始まりました。(※1)

「日本の上場企業群を一つの会社に見立て」た「ニッポン株式会社」の全体像の「ツボを押さえておこう」という趣旨です。

財務諸表の入門者にお勧めです。むかし財務分析を学んだという方にも、最新のデータがまとめられていそうなのでお勧めします。

ちなみに「ニッポン株式会社」はというと、3月期決算の全国上場企業3706社(新興3市場と金融を除く)が対象。日本経済新聞社が集計したデータが使われています。日経新聞では「ニッポン株式会社」という表現が使われます。

第1回の今日は「基礎体力」診断と称して、自己資本比率と負債資本倍率が取り上げられています。あまり書くと記事の価値を損なうのでデータのポイントだけ。

〔2008年12月末〕
自己資本比率 34.9%
負債資本倍率 0.88倍 (D/Eレシオ=有利子負債÷自己資本)

詳しくは記事をご覧ください。

※1:2009年4月1日付 日経新聞 投資・財務1「新社会人のためのニッポン株式会社 ①」

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2009年3月22日 (日)

ビジネス会計検定の結果

090322_151950_b_2 2月の記事「ビジネス会計検定」で、2級を受験した感想を記しました。肝心の(?)検定結果ですが、無事合格していました。(ホッ)

いや、先の記事では「難しかった」と予防線めいたことを書きましたが、落ちていたらしゃれになりませんでした。(苦笑)

合格率は31.3%、受験者数1,137人中356人が合格。前回=第2回の合格率が29.8%、第1回が41.0%なので、ここ2回は約30%です。(※1)

ということは「難しかった」という私の感想は、「前回比」では的外れだったと認めるべきでしょう。私自身は今回が初めてだったので前回との比較ではなく、数値計算の問題が不必要に難しいと感じたのですが、検定としてはその水準を求めていると考えるべきでしょう。

しかし、受験者数が、3級、2級とも減少傾向にあるのが気がかりです。せっかく良いコンセプトの検定なので、受験者数を10倍ぐらいにし、合格水準のハードルを少し下げて、2,3級の合格者がごろごろいる状態を目指してほしいと思います。

※1: ビジネス会計検定 試験結果のページ

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